●ブーローニュの森蔭にセーヌは流れ… ロンシャン競馬場(パリ)
まずホテルを出、競馬新聞をアンヴェール駅方面のスタンドで購入。1部6,8F〜7F×3部。うち凱旋門賞の記事のみの特集紙が2部。
(フランの小数点は、ピリオドじゃなくて「,」で表すので紛らわしい)

ブーローニュ・・・駅のホーム朝市やのみの市を見物した後、クリニャンクール駅から地下鉄に乗る。カルネを買い、ブーローニュ・ポン・ド・サンクルー駅まで乗り換えを含め約20分の旅。隣席に座ったポルトゲーゼだというおばちゃんに声をかけられる。「中国人か日本人か?」に始まり、なかなか味のある笑顔でいろいろ話しかけてくれるのだが、さっぱりわからない。ノン・シノワ、ジュ・スイ・ジャポネとか言ったきり東洋的スマイルを返す。そのうちおばちゃんもつまんない顔になってしまった。すまん。
駅ごとにアコーディオン弾きやSAX吹きが乗り込んで来て、電車の中で演奏を始める。特にオデオン辺りは芸人のメッカらしい。


さて凱旋門賞、ロンシャン競馬場である。

レープロ駅から出た方角が思ったのと違ったようで、森のほとりをかなり遠回りする。いつ果てるともわからぬ、枯れ葉や栗の実が落ちまくっている道を20分ほども歩いて、ようやく競馬場正門に到着。ゲートとその白い瀟洒な建物が見えた時は感動したなあ。おしゃれな制服のおねーさん達正門前。「凱旋門賞ウィークエンド」の横断幕料金表。凱旋門賞当日は50フラン
入場券売場窓口に料金表が書いてある。指定券の案内ででもあるのかと思ったらそうではなく、開催内容によって入場料が違うらしい。凱旋門賞の日は50F。高い。
しかしその日が、パリの競馬ファンにとっても特別な日なのは間違いない。続々と、着飾った紳士淑女が集まって来る。さまざまな帽子、おしゃれ。客はほとんどがちゃんとした大人。明らかにハイソな人も多いし、質素だがこの祭典のために精一杯おしゃれして来たよ、といった感じの人もいる。モギリとレープロ配りのおねえちゃんたちも黒いコートに真っ赤なローブという素敵な制服。それに素敵な脚で、素敵な笑顔を配っている。
(左は、エルメスのデザイナー、ユベール・ド・ワトリガン作のイラストが飾るレーシングプログラムの表紙)


ロンシャン競馬場のスタンドは、ほとんど白で統一された建物。そのひさしの辺りに植物が覗き、その白と緑のコントラストが非常に美しい。また木々や花壇が、その美しさに文字通り華を添えている。パドック、スタンド、馬場の位置関係は東京競馬場とほぼ同じ。だがそのたたずまいが上品なのと、木々が立ち並び視界がさえぎられているせいか、全体に東京より小ぢんまりした印象を受ける(スタンドは実際に小さいのだろうが)。
スタンド中央にある貴賓席+審判席かパドック方向に向かうと、ブックメーカーのものだろうか、会員席があり、ツンと気取りすました人がテーブルについていたりする。どうやらここには日本で言う「指定席」というものはない。単にそうした会員用の特別席があるだけなのだ。

パドックがまた広い。馬がまわるオーバルの中を縫うように、林然と木立ちがあり、いく筋かの小道が巡っている。中央に屋根付きの放送用カウンターがあり、TVカメラがスタンバイしている。時折ジョッキーが呼ばれてインタビューに答える。オリヴィエ・ペリエ(フランス語ではペスリエ、とスペル通りに発音しているような気がする)の顔も見える。青服はデットーリと思われる。
TVのインタビューを受けるペリエとデットーリ中でも驚いたのは、パドックにもモニタディプレイが設置されており、レース風景が見られること。パドックでは、レースを見ながら怒号を上げたりはしないのだろう、その辺りはやはり大人な競馬文化なのである。一方、オッズは出ない。リザルトも出なかったように思う。配当は、場内の専用TVモニタに表示されていたようである。
サンドイッチを食べビールを飲みしつつ第1レースを待つ。第1レースの発走は13:55なので、みな友人と談笑したりシャンパンを開けながらゆったりとレースを待つわけだ。

馬場に出て見る。とにかくだだっ広い真緑の空間。東京と同じような“ターフビジョン”が2基設置されている。振り返ると、白いスタンドに緑の植物がワンポイントで下がり、これまた実に美しい。


パドックに馬が出るのは発走の10分ほど前だ。現れて3周ほどすると、三々五々ジョッキーが乗り、馬場へと出て行く。その場道が2階・真上からも見下ろせ、渡り橋の上からファンがジョッキーに声をかける。そう言えばジョッキーは、一般の人が入れない特別席の方にある建物の2階から、階段をとんとん!と駆け下りてパドックに出てくる。とてもかっこいい騎乗前にサインに応じるとは。。その途中で、特別席の子供達がサインを求め、それに応えるというのも日本ではまったく考えられないことだ。ジョッキーは飽くまでもプロスポーツ選手なのだ。
誘導馬を駆るのは女性。立派な体躯の馬を悠々と操るだけのことはある、威厳あるおねーさんであった。

場内には日本人も散見できる。みな心得たもので、スーツを着たりしている(おれもこの日のためにジャケット持参である)。

馬が馬場へ出、返し馬が終わるとほどなくスタートとなる。オーストラリアでもそうだったが、馬に負担をかけないためかもともとそういう習慣なのか、ここの間隔がえらく短い。おかげで、馬券を買う時間がないどころか、どっと混み合った窓口に並ぶいとまさえない。スタート直前というのにあんなに人が並んで、いったいみんな馬券を買えるのだろうか? ちなみに一般向けの馬券は10Fから。券種には単(ギャグナン)、複(プラッセ)、馬連(ジュムレ)、拡大馬連(ジュムレ・プラッセ)、三連複(パリ・トリオ)の5種があるらしい。
ファンファーレが鳴り、スタート(ファンファーレは馬場入りの時に鳴るのだったかも知れない)。スタートと同時に、日本の馬券締め切りを思わせるブザーが鳴る。実際に締め切りなのかも知れない。


遙か遠ーくの丘を駆け下りてくるロンシャン競馬場の第1レースは芝2,000m。1周2,600〜2,700mと東京より遙かに大きい馬場。時計回り。走路を周回はせず、馬蹄状に走る。向こう正面は、坂と言うにはあまりにも急なスロープがずっと向こうまで続いており、まさに丘を駆け上がるようだ。そこから右にカーブして徐々に下り、直線はほぼ平ら。その直線走路の幅がまた50m近くあるのではないかと思われる広さである。いかにも腰の強そうな緑の芝がずっと続き、その絨毯の上を馬が一段となって駆け寄ってくる。美しくも迫力満点の場面である。この時の喚声ばかりは、さすがに競馬であり、日本もフランスもない。ゴール前の激戦
第2レースは牝馬のGI、マイル戦。そして第3レースがやはりGIで1,000m戦なのだが、これが直線走路で争われる。但し競馬場中央を横断する専用の直線コースが使われるため、ゴール板の位置も他のレースとは違い、ターフビジョンの向こう側にある。ゴールの瞬間を、スタンドから肉眼で見ることができないのだ。何ともレース優先主義というか観客に見せる感覚が薄いというか…。

どういうわけか駆け戻るひとつのレースが終わって再びパドックにとって返すと、静かな華やかさが感じられる表彰式が行われる。賞品のプレートを受け取ると、ジョッキーは必ずパドックをだーっと駆け出し、控え室に戻って行くのが面白い。

馬主にレースの見通しを語る?ジョッキー次のスタートまでの待ち時間が長い。パドックの中には、いかにも貴族然とした馬主とその家族が入って行き、ジョッキーと談笑している。ジョッキーはいわば雇い主に挨拶や今日の様子を報告する、といった趣である。ゴドルフィンやアラブの王族がずいぶんたくさんの馬を出しており、パドックの近隣で「シェイク・モハメドよ」というおばちゃんの囁き声が聞こえた。あれかな?とは思ったが、顔を特定できなかった・・・(ヒゲを生やしたアラブ人はみな同じに見えるし)。


レーシングプログラム凱旋門賞のページさて凱旋門賞は第4レース(15:50)に組まれており、日本のように終盤のクライマックス、という感じではない。全体で7レース(うちGIが3レース、GIIが1レースある)、最終レースの発走は17:40だ。
凱旋門賞にはやはりフランス人も力が入るらしく、パドックも馬場スタンドも人でいっぱい。とても馬券は買えないと思ったが、端の列に紛れ込んで、「ハイライズ」という馬の単勝を買う。ハイ馬券だ。よく研究してはこなかったのだが、下馬評では、ハッピーバレンタイン、サガミックス辺りに次ぐ単穴級の評価だったらしい。
さて発走。馬が一団となって遙か向こーうの丘の中腹を遠く遠く駆け上がっていく姿が印象的だった。ゴール前は例によってわけがわからなくなるが、ハイライズは馬群に沈んで着外、先頭を駆け抜けたのはサガミックス、なんとおどけて観客に挨拶するペリエペリエが凱旋門賞3連覇という結果であった。
続いて表彰式が、芝の馬場で執り行われる。トラクターで、大きな表彰台をひきずって来るのには笑った。ゴール前はやたらに広いから馬が走る部分ではないとはいえ、一応本馬場の芝なのに…。ほどなく馬主やトレーナー、厩務員らを乗せたアンティークな馬車が入って来る。面白いのは、ジョッキーはその座席ではなく御者台に乗っていることだ。なるほどジョッキーも馬を御する人間だからということか。順に賞品(小さなカップか?)が渡されていくが、ジョッキーはもちろん、厩務員さんへの拍手が大きい辺りは嬉しくなった。日本でも同様の傾向があるが、心理的には同じなのかな?

まだまだレースは残っているが、雨がパラついて来たこともあり、競馬場を後にする。メインレースが終わると、多くの人が帰って行くようである。来る時に迷わなければ通るはずだった道を、傘をさして歩いた。ブーローニュの駅まで約30分。歩いている人はほとんどいない。無彩色の街がきれいであった。

(98/10)