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2007/12/01 土

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599) (宝島社文庫)
久々に虚構を読んでみますた。
サイエンス・フィクションは嫌いではないので。
と、非常にスピード感というか熱のある「書評」をダン・コーガイ氏のブログで読んだので。(正確にいうと「続きを読む…」以下は読んでないけど)

よい評論はそれ自体が触発する主体である、というようなことを吉田秀和せんせいだったかが書いていて、とても感心した覚えがあるんだけど、読書感想文にも自然と立ち上る浸透力がある、というのがアルファブロガーの才能というものなんでしょうねぇ。

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さて、一読。
いわゆる医療ドラマです。ミステリーです。

「上手いミステリー小説」というのは、手口のための事件、事件のためのストーリーになりがちっていうのがあるから警戒しなければいけないんだけど、そのへんを差し引いて余る一級のエンタテインメント。

なによりキャラが立ちまくっている、というのは衆目の一致するところらしいですね。
「史上最強の万年講師田口公平」。
これは逢坂剛の「孤高のPRマン岡坂神策」、高村薫の「屈折した警部補合田雄一郎」の各シリーズなどを読んだ時の感覚を思い出しますな。
時を忘れて次の本、次の本、と読みふけったものですが、ちょっと、同じオカンがします。

もっとも、「ミステリー」とはいいつつ、事件の進行とか、捜査や立ち回りとかではなく、論理の積み重ねで物語を紡ぐという構成は、例えば「十二人の怒れる男」的な舞台設定を思い起こさせる部分もあるので、キャラをたんねんに描くことが自ずとお話の生命線なのかも知れない。

作者は現役の勤務医(病理学)なんだそうで。
読前、医者なんだったら、小説書くより医学の研鑽に時間を使えばいいのに…とまあ、意地悪に思わなくもなかったけど、読むとナルホドと思う。

例えば、小児臓器移植が日本でできないこと、ゆえに海外で手術を受ける家族も多いが、それがマスコミでは「美談」以上の取り上げ方がされないこと。
医学先進国の中で、日本では死亡時医学検索(剖検)の実施率が低く医学検証が十分とは言えないこと。(このへんは事件を解くカギともなっている)
さらに、「病院といういびつな生命体の排泄行為」…という極めつけの台詞。

こういった医学、医学行政、医学をとりまく社会生活の歪みへの疑問・提言は、(特に勤務医の立場であれば)直接語るよりも小説にまぶした方がうまく伝達できる、とは言えそうです。

なんにせよ、上下巻1,199円はとても安い買い物です。

チーム・バチスタの栄光」 海堂尊 (宝島文庫)


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それはいいんだけど、またもや映画化なんだそうだ。
読んでじゅうぶんに面白いものを映画化する意味がよくわからない。要はひとつのコンテンツを美味しく何度も食おうという、卑しき日本の映像文化の発露なんだけど、原作を貶めるだけだと思うなぁ。

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